

南仏コートダジュールのサントロペは、世界中のVIPが豪華ヨットで集う避暑地だ。一方私がこの町に興味を抱いたのは、あるフランス映画がきっかけだった。喜劇俳優ルイ・ド・フュネスの「サントロペの憲兵(1964年)」である。
物語はド・フュネスふんする憲兵(日本の警察官とほぼ同じ仕事)が、サントロペに赴任するところから始まる。彼は上官にへつらい部下に威張り散らす、どの会社にもいそうな中間管理職だ。そんな彼が、自分の娘のおかげである事件に巻き込まれる。危機一髪となるが、最後は災い転じて…というストーリー。

私は映画の舞台を一目見ようとサントロペに向かった。撮影からすでに40年。町は様変わりしてしまっているか? ところが予想に反し、港町はスクリーンの中とほぼ変わらぬ姿で私を迎えてくれた。海岸を歩けば、登場人物がたむろしていたカフェが今も営業しているではないか。やがて壁に「憲兵隊」と書かれた廃屋が現れた。当時のセットの名残と思いきや、なんと本物の憲兵隊本部跡だった。本当にそこを使って撮影が行われたらしい。しばらくすると、年配のフランス人観光客がやってきて、その建物の前で敬礼ポーズで記念撮影を始めた。今もひそかな観光地になっているようだ。古びた扉には「メルシー! ド・フュネス」などとメッセージが書き込まれていた。

確かに、フランスのおじいちゃん・おばあちゃんにはいまだド・フュネスの熱烈なファンが多い。後日、私があるお年寄りに「サントロペまで見に行った」と言ったら、その日から私を見る目が変わった(気がした)。それに気を良くした私は、気がつけば「憲兵隊シリーズDVD全6巻」を買いそろえていた。日本に住んでいたら、柴又で団子を買ったついでに「寅さん全集」をそろえているに違いない。
【シティ特派員プロフィル】
大矢麻里(おおや・まり)/イタリア・コメンテーター。幼稚園教諭、商社OLを経て、自動車誌記者だった夫と1996年結婚。同時に一念発起してトスカーナの古都シエナに移り住む。現在はラジオ・雑誌・Webのイタリア特集に欠かせぬ顔として、女性や生活者の視点からレポートをしている
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