「四日間の奇蹟」はピアニストの道を閉ざされた如月敬輔と、天才的な音楽の才能を持ちながらも脳に障害を持つ少女・千織が山奥の診療所で不思議な体験をするストーリー。浅倉卓弥さんはこの作品で、語り手のポジションにいるはずの人間が最後に事件に巻き込まれるという形を作りたかったのだそう。「登場人物はまずプロット(筋立て)やカタルシスを成立させる要素として造形していきます。ただ最初と最後で彼らの関係性に変化が生じることも物語にとって必要な条件だと考えています」
血のつながっていない敬輔と千織。時に親子のように、時には兄妹のような二人の関係を、浅倉さんは“保護者”と“保護が必要な人間”だと話す。「千織という少女は敬輔にとって圧倒的に弱い存在。状況的にも自分が彼女を守らなければいけないという使命感があるのだと思います」
敬輔に誰かを“守る”ことや“人間らしくあること”の難しさ、大切さを教える人物として、植物状態の妻を看病している診療所の倉野という医師が登場する。「彼は男性の持つ、しぶとさや弱さをかいま見せながらも、厳格さも持ちあわせている。昨今では少なくなったタイプかもしれませんが、敬輔にとっては父親的な存在の人物です」
そして診療所で突然の事故に直面していく中で、混乱しながらも周囲の人の支えや、誰かを助ける一途な姿を知り、敬輔は次第に現実を乗り越えようとしていく。さらに、その経験を糧にして自分に与えられた試練や未来を受け入れようと覚悟する。「ある経験が人の心のどこかに作用した、その変化を抽出したいんです。これは続けて発表した〈君の名残を〉や〈雪の夜話〉でも同じです」 |