海外通信
シエナ 2006.5/24 更新
豪快にかぶりつきたいジューシー豚の「ポルケッタ」
(シティ特派員/大矢麻里さん) 海外通信バックナンバー

 イタリアに暮らし始めたころのこと。あるお祭りで会場を歩き過ぎたイタリア人の友人と私は、ヘトヘトに疲れていた。腹ペコなのに、レストランの長蛇の列に加わる元気は、もう残っていなかった。そんなとき、「アレにする?」と友人が指さした先には屋台が。トラックを改造した「PORCHETTA」と看板のある屋台に近づいて、思わず一歩退いた。そこには、なんと丸ごと焼かれた1頭の子豚がドーンと横たわっていたのだ。

 イタリアでは、小腹がすいたとき、豚ローストの薄切りをパンに挟んで食べるのが軽食の定番であることを知った。イジワルな友人は「キミのイタリア語もだいぶうまくなったかな?」と、私の背中を押して列の先に並ばせた。いよいよ私の番だ。気合を入れて「ポルケッタを挟んだパン1個」と注文した。いや、注文したつもりだった。しかし、屋台のお兄さんは「オイオイ、あんた豚を丸ごと食べるのかい」と爆笑している。イタリア語は、日本語と語順が逆転するので慣れないうちは要注意なのだ。それなのに私ときたら、大胆にも「パンを挟んだポルケッタ1頭」と口走っていたのだ。パン1個と豚1頭では、えらい違いだ。

 大口を開けてかぶりついた瞬間、ローズマリーの香りがクラクラと鼻を突きぬけた。豚のおなかに、さまざまなハーブが塩こしょうと一緒に塗り込まれていたからだ。トロッとした肉のゼラチン質にも、それらのエキスが染みこんでいる。カリカリと香ばしくなった皮の部分も捨てがたい。味はかなり濃いが、塩なしの無愛想なトスカーナパンと一緒なのでバランスがよい。

 「このままだと本当に1頭いけるかも?」と思わせる食べっぷりで、私は屋台のお兄さんを見返した。最初は哀れに見えた子豚ちゃんも、これだけ豪快に食べられれば、喜んでいるに違いない。

シティ特派員プロフィル
大矢麻里(おおや・まり)。イタリア・コメンテーター。幼稚園教諭、商社OLを経て、自動車誌記者だった夫と1996年結婚。同時に一念発起してトスカーナの古都シエナに移り住む。現在はラジオ・雑誌・Webのイタリア特集に欠かせぬ顔として、女性や生活者の視点からリポートをしている
ポルケッタ屋台
ポルケッタ屋台は、わが町シエナのメルカート(市場)にもやってくる。F1レーサーのシューマッハ似のお兄さん
ポルケッタ
立ち食い屋台と侮るなかれ、豚のおなかにうま味を封じ込めた「ポルケッタ」は、イタリアン・パニーニの決定版
ポルケッタの調理現場 ポルケッタの調理現場に潜入! オーブンから出てきたばかりの豚ちゃん。焼きあがりに満足したのだろう、心なしか笑顔である