(読者リポーター/小林範子さん)
ギリシャの、白い町並みのミコノス島から40分。真っ青なエーゲ海を船で駆け抜けると、「デュロス島」が見えてくる。島に近付くにつれて、ただのゴロゴロした石だと思っていたものが遺跡の数々だと気付く。キラキラと光を反射する波の向こうにある、物言わぬ遺跡と向き合うと、ただの観光地にはない高貴な雰囲気を感じる。 この島は、天空の神ゼウスの寵愛(ちょうあい)を受けて身ごもったレトが、正妻ヘラの嫌がらせで出産の場所を許されず困窮しているのを見て不憫(ふびん)に思った海の神ポセイドンが、海の藻を集めて作ったとギリシャ神話で伝えられている。そこで産み落とされたのが太陽の神アポロンと月の女神アルテミス。輝かしい二人の神の誕生の地は、今では「天井のない博物館」として世界遺産に指定される、小さな無人島だ。
島へ一歩足を踏み入れると、まるで紀元前7世紀と同じ風に吹かれているかのように感じる。前門を抜けると、ドーリア式の柱が残るアポロンの神殿が迎え入れてくれる。その先には、その中に多くの遺跡が見つかったアルテミスの神殿。石を積んで造られた住居、野外劇場、細かなタイルでできた床、高度なモザイク画、顔のない彫刻。島は遺跡で埋め尽くされているようだ。迷路のような古代の路地を歩けば、今にも古代の人々のざわめきが聞こえてきそうである。
島を一望できるキントス山に登った。急な階段に息が切れるが、振り返るごとに広がっていく視野に励まされながら、ひたすら頂上を目指す。最後の一段を上り、吹き飛ばされそうな強風を受けながら見渡すと、息をのむほど美しい入り江とブロックのおもちゃのような遺跡都市が広がっていた。
ふと、すべての観光客がいなくなった後の、静かな島について想像をめぐらしてみる。…美しい月明かりに照らされると、大理石の遺跡はどのような光を放って輝き、どのような影を落とすのだろう。野生のクジャクがいるらしいが、人がいなくなったのを知ると、まるで自分たちの住居のように遺跡の中でくつろいでいるのではないか。場所を移されてしまった白いライオン像は、もしかしたら島を守るという任務を遂行すべく、元の位置に戻っていくのではないだろうか。そんなことがあっても不思議ではないと思えてしまう、神秘的な島だった。


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