●森優子プロフィール
2005.3/30 更新
森優子の楽しむ旅行術バックナンバー
旅本ライブラリー(11)
旅先の身近な生き物の「へえ〜」が満載!『旅の虫眼鏡』
旅先の身近な生き物に目を向けたら、
世界はもっと面白い
 タイへ新婚旅行に行った知人の話。
 「ホテルに着いたらスタッフが『ご結婚のお祝いにケーキを準備しました』って言ってくれて、で、喜んで部屋に入ったらベッドサイドのテーブルになにやら赤黒い物体が。そう、ケーキの表面に数万匹のアリが表面に群がってたわけ。せっかくのご厚意だったけど、捨てちゃった」
 ああ、私にもあるある、よく似た経験……と頷いた方も多いのでは? ほかにも……
「ドイツのスズメはなんとなく日本のスズメよりも色が薄くて薄情そうだった」
「ハワイのゴキブリは赤茶っぽくて大きかったけど、スリッパで叩いたらいとも簡単に死んじゃった」
 こんな『外国での生き物エピソード』。人からもたびたび聞くし、自分自身も「そういえば」と思い当たることが、あるわあるわ。
 たしかに、べつに動物園や自然保護区に行かずとも旅先ではなんらかの動植物に遭遇するものです。空港の床のアリ、浜辺に落ちていた貝、野良猫、日本のものとはどこか雰囲気が違う料理のつけあわせのトマト……などなど。
 べつにそれらの正体なんか知らなくても問題はないけれど、なんとなく気になる。でもそうこうしているうちに帰国して、結局忘れてしまうものだったりします。
が、「それをちょっと調べてみたら、これがかなり面白いのよ」と一冊の本を書き上げてしまったのがイラストレーターのイトヒロ(伊藤博幸)氏。
直筆サイン色紙プレゼント
『旅の虫眼鏡』の著者でイラストレーターのイトヒロ(伊藤博幸)さんの直筆サイン色紙を一名様にプレゼント!
応募は終了しました
締め切りは4月20日(水)。
当選者を4月27日更新の当コーナーで発表ののち発送します。
イトヒロ氏 プロフィール
1954年、宮城県は築館町生まれ。早稲田大学漫画研究会に所属して絵を描き始め、卒業後にフリーのイラストレーターとなる。昆虫に魅せられ、草野球に熱中し、旅行を趣味とする多目的人生を歩んでいる。
挿絵・絵本作家としてはもとより、身近な対象を面白がってとことん調べるコラムニストとしても才を発揮し、たとえば月刊「子供の科学」での長期連載「イトヒロのご近所探検隊」は読者からの人気投票で常にベスト3内にランクイン。
小学6年生の息子ナオくん(野球好き)と妻(コピーライターの向山昌子さん)との三人暮らし。東京都世田谷区在住。
ちなみにイトヒロ氏の初めての海外旅行はグアム。その後も何回か海外旅行に出かけるが、91年に仕事を長めにひと休みして、パートナーの向山さんと二人で約一年の長期旅行へ。
「旅の虫眼鏡」はその旅での体験談が多くをしめている。
旅の虫眼鏡≪アジア・アフリカ路上観察ノート≫
著・伊藤博幸(イトヒロ)
刊・旅行人
税込1470円 
生き物一種類につき二ページとコンパクトにまとめられている。旅に出る前に、帰国後に。興味のあるところだけ。後ろから前から途中から。どこからでも読めます。
「旅の虫眼鏡」には箸休め的に四コマ漫画がたくさん挿入されていて、これがまた楽しい。
【内容】
イラストレーターの著者が、アジアやアフリカの道端やらホテルやら食堂やらで出会ったさまざまな昆虫・動物・植物など100種類。ひとつひとつのエピソード+雑学をイラストとともに綴った、虫眼鏡的エッセイ。
 ナイロビで自炊生活をしたとき、食材を求めに市場へ出かけて驚いた。ダイコンがあるのだ。そのほかにも日本で見たような野菜がたくさんある。いや、正確に言うと日本で見る野菜ばかりだ。見たこともない野菜や果物を期待していたのに、ちょっと拍子抜けした。と同時に、日本から遠く離れた、人種も違うケニアが、似たような食材を通して身近に感じられたことも確かだった。
 よく見れば、ホテルの中庭では、これまた日本と同じようにカラスがゴミをあさっていた。ダイコンといいカラスといい、まるで日本と変わらないじゃないかと眺めていると、そのカラスがちょっと違うのに気づいた。胸と首の後ろが白い、白黒カラスである。それがカーカーと鳴いているのだ。不思議な感じだ。日本
に帰ってから調べてみたいと思った。
 白黒カラスはムナジロガラスという、もちろん日本にはいないカラスだった。
やはり日本とケニアはなにげなく違うのだ。と納得していたら、ダイコンもだった。(中略)
 それならばひとつ、身近な生きものたちをかたっぱしから調査してみよう。「身近な生きもの海外調査探検報告」である。
 それによると、トマトはわずか150年前までは有毒植物といわれ、北欧で食べるものはだれもいなかったという。ほほう。
 世界一の紅茶生産国であるインドの国民的飲料『チャイ』には、たかだか100年ほどの歴史しかない。へえー、知らなかった。
 ナメクジは殻の退化したカタツムリで、もともと貝の仲間である。なんとまあ。(中略)
 ここはひとつ、ずるずると調査を続けてみるべきではないだろうか。
 本書には、イトヒロさんがこれまで自分の足で歩いて観光旅行を楽しんできた世界各地(東南・中東・南アジア・アフリカなど)の道端やホテル、ビーチ、食堂などで見た動植物のエピソードと、帰国してから調べあげた雑学が、精密+可愛いらしいイラストとともにわかりやすくまとめられています。
 ゾウ、コブラ、チョウ、牛、野良猫、唐辛子、ドリアン、クウシンサイ、ライオン、ナマコ、パクチー、コーヒー豆……などなど、本場ならではのものから日本でもおなじみのものまで。
 イトヒロさんはイラストレーターであって、動植物の専門家ではないし、とりわけ動物愛護精神に満ちているわけでもマニアでもなし。
 ゴキブリが出ればゾーッとして必死でつぶすし、野良犬が夜中に騒いで寝不足になれば腹も立て、ポインセチアを「ベゴニアだ」と言っては人に笑われる。
 旅行だって、大冒険とはほど遠いふつうの旅行(会社員よりは期間が長めだったり地域がアフリカに及んでたりもするけれど)。だから本書に紹介されている生きものはみな、誰もが接触するありふれた身近なものばかり。
 たとえばギリシャでペットボトル入りの水を飲んだとき。イトヒロさんは表面に浮かんでいる油膜状のものが気になって、ホーローカップを何度も洗ったり、シンガポールで買ったティーバックに疑惑をかけたり、そもそもその水が不良品ではないかと心配したりする。でもあとでそれが硬水に多量に含まれたミネラル分であることをつきとめてホッとして、ヨーロッパと日本の水の違いを痛感する。
 インドのヘビ使いのコブラは実は笛の音は聞こえていなくて笛の先端の動きをおっかけているのだという調査結果が、ムンバイのヘビ使いに「写真撮ったなら金払え!」と追っかけられた恐怖とともに描かれる。
 やはり本書の魅力は、それらがあくまでも「ふつうのもの」というところにあるのでしょう。
「図鑑的な役割」と「旅行記の楽しさ」
 この絶妙バランス
 『見た聞いた面白かった』程度のエピソードに終始していないこともこの本の大きな特徴であり魅力です。
 私見ですが、資料性がありそうに見えて実はただの「体験談の羅列」「絵日記」「自慢」でしかない本も、特に旅本のジャンルには多く見受けられる気がするのです。でもこの本は「動植物の雑学本」としての資料性がちゃんとある。
 ちなみにこれを単行本にするにあたってイトヒロ氏はすべての項目について膨大な文献を読み、ある時は専門家に問い合わせ、監修を依頼し、絵や文の手直しを繰り返したといいます。
 かといって専門的すぎず、共感しながら笑って読める旅行記でもある。このバランスの良さ、じつはなかなかお目にかかれるものではなかろうと。
豊かな遊び心こそが「上質な原動力」だ!
 ちょっとした雑学が旅先でのふつうを明らかに面白くしてくれる、見るもの触れるもの食べるものをいっそう味わい深くしてくれる。
 一見ありふれたものこそ油断禁物である。
 そしてそれらにはみな興味深い話が隠されていたのだ。
  (前書きより)
 乱暴な言い方をすると、草野球の精神論にせよ動植物の知識にせよ、イトヒロ氏の著書は「それがどうした」「知らなくても生きていける」なものばかり。
 でもこの豊かな遊び心や好奇心こそが氏の原動力であり、愛される大きな理由に違いありません。
 私はその「大いなる遊び心」に、人間の魂の理想的な輝きを見るのです。
★あわせて読みたい★
「アジアごはん紀行」
向山昌子
著/晶文社
税込2205円
 これはおつれあいの向山昌子さんの著書。コピーライターとして東京は青山で活躍していた著者が、ある日事務所をたたんでアジア・アフリカへ旅発つ。ゴムぞうり履きでてくてく歩いて汗とほこりにまみれながら食べた屋台料理、現地のふつうの人たちがふだん食べているごはんや、その家族の光景。各国のふだんのごはんを再現するレシピつき。
 この本が生まれたのは1994年。エスニックフードにすでに注目が集まっていたとはいえ、まだまだ「タイレストランの銀の器で食べるHanako族のお楽しみ」という域を出ていなかった当時、ふつうの人がふつうに食べるごはんに焦点をあてた本書のタイトルが、実に新鮮だったことを覚えています。
 現在ではふつうのスーパーでもナンプラーを手に入れられるようになり、屋台料理だってちっとも珍しくはありません。それでも今読んでもなおこの本が色あせて見えないのは、ひとえにそこに描かれているのが「アレンジされたものではない本物のアジア」の人であり、食べ物であり、人間が本能的に失いたくないと願う光景であるからかもしれません。
 人々の暮らしや息づかいから見えてくるものは、けっしてきれいなものばかりじゃない。でもそれらをひっくるめて抱きしめたくなるような、ふつうのアジア。自分もまたアジアの人間だという実感。著者がそれらを素直に描き出した、名著です。
 この本に夫として登場するのがイトヒロさん。中には「あっ、このエピソードは『旅の虫眼鏡』にも書かれている、あれか」なんて箇所もあったりして、邪道ながら私は二冊を読み比べて楽しんだりもしております。
 とはいえ、同じところを旅しても同じものを食べてるはずでも、向山さんとイトヒロさんとでは書くものの持ち味や考察が異なるのがまた面白いところ。
 次回はこの筆者イトヒロさんにお話をうかがいます。お楽しみに。
イトヒロ氏 著書一覧
私にとっては「旅の人」という印象が強いイトヒロ氏だったけど、じつは旅がらみの著書は「旅の虫眼鏡」だけだった。でもこの際、イトヒロ氏の全貌を知ってもらうために著書を一挙紹介。
「不思議の国の昆虫図鑑」
(凱風社・税込1545円)
ボロボロの服を着てアジアやアフリカを放浪する旅の虫・アフリカボロフタリ。オオブロシキ(大風呂敷)という花の上で調子よく唄い踊るハッタリバチ。楽しい時も苦しい時も常に不満顔というフマンガオモドキなど、人間の行動・性格の特徴を昆虫にたとえて「新種の昆虫」として描いた、ユーモアたっぷりのパロディ・イラスト図鑑。人間観察や言葉遊びが満ちた本書には、氏の「遊びごころの豊かさ」が満ちている。
「不思議の国の昆虫図鑑」より、シバイタレオコリンボ。主に関西に分布。威嚇のために絶えずカッカしているので、熱エネルギーの消耗が激しい……って、なんか他人事とは思えんなあ私。
「草野球非公式マニュアル」
(メタ・ブレーン/税込1325円)
草野球歴20年の著者が独自に学んだ草野球ワールドの技術、精神論の集大成。天気・場所とり・ケガ・人集めなどな……。結果重視のプロ野球ではなく、素人が「すっとこどっこいしながらも本気で楽しむ野球」の真髄を人間味たっぷりに教えてくれる。名著。
「おひさまぞろぞろ」
(福音館書店/税込1680円)
「おかあさん、へびはどこからしっぽなの?」「かぜってさむいやろうなあ じぶんでふいてるもんなあ」……などなど、月刊「母の友」の「こどものひろば」に掲載された子供のつぶやき集。亀村五郎氏選のキラキラ光るようなたくさんのつぶやきにイトヒロ氏が絵をつけた、フルカラー絵本。
「おひさまぞろぞろ」より。「おうちがあかんべーしてる」→四歳の子供のつぶやき。
「ぐるぐるくん」
(フレーベル館・ころころえほん/333円)
洗濯機の水流から飛び出したぐるぐるうずまきが町や道路でぐるぐるぐるぐる……。トンボの目はまわり、車のタイヤもいっそう回転が早くなり、そして最後には……。氏は多くの子供向け絵本の作・挿絵も手がけている。これはそのうちの一冊。
「からだでわかっちゃう草野球」
(学研/税込1260円)
草野球本の第二弾。表紙は氏の所属した早大漫研と草野球の大先輩・漫画家の東海林さだお氏によるが、中はイトヒロ氏のイラストと草野球論が炸裂。ありそうでない草野球本の決定版。
ページtopへ戻る▲