●森優子プロフィール 森優子の楽しむ旅行術バックナンバー
2004. 11.24up
旅本スペシャル(3)
抱腹絶倒の旅エッセイ「わたしの旅になにをする。」
●旅ものというジャンルを越えた、抱腹絶倒ものの秀作
 もはや日本人にとって『異国』『秘境』はなくなり、「紀行文は飽和状態」「自己陶酔してるものが多くて読む気がしない」などと言われるようになり、読者ばなれがすすんでいるのも現実です。
 でもでも、それで足が遠のいてはもったいない。少なくとも宮田珠己(みやたたまき)を見逃しては現代日本に生まれた甲斐がないというものです。
 読書のツボには個人差があろうけど、宮田珠己を面白がれない人はいったい何が面白いんだ。
宮田氏の著書、手始めにいいかもと思うのはこの一冊。
わたしの旅に何をする。
著/宮田珠己(みやたたまき)
刊/旅行人
1470円
宮田氏筆、鼻毛おやじ
約10年におよぶサラリーマン生活のかたわら旅行にあけくれ、エッセイストに転身した宮田珠己氏(通称タマキング)による旅エッセイ集。抱腹絶倒・撃沈必至のタマキング・ワールド。
▼ちょっと抜粋↓
「大型連休は全力でリラックスだ」
 私はついこの間までサラリーマンであった。結局退職したのだが、ええい会社なんか今すぐ辞めてやる、そうだ、今すぐにだ、という強い信念を十年近く持ちつづけた意志の堅さが自慢である。
 サラリーマン時代の私は、年三回の大型連休には必ず有給をくっつけてぐいぐい引き延ばし、いつも海外旅行にばかり出掛けては、上司に「たいした根性だ」とスポーツマンのようによく誉められた。幸運にも私の上司はできた人で、私がいくら休もうが黙って旅行に行かせてくれた。帰ってきてお土産を渡しても廊下であいさつしてもまだ黙っていたほどだ。
 で、取得した連休は大型であればあるほど、中途半端な使い方では納得がいかない。最初のうちは外国をあっちこっち緻密に動き回っていたが、そうすると列車の予約だのホテル探しだの段取りばかりが多くなって、仕事の続きみたいでかえって疲れてしまう。
 こんなことではいかん、とあるとき私は考えた。
 他、「台湾はそれでいいのか」「鳥葬をあきらめる」「ワイルドな旅支度について」「ちょっとずそずわしますが」などなど、多くの読者をタマキンガー(タマキング・ファンの総称)におとしいれた珠玉の39篇。
▼個人的な感想→まんまとねじふせられる絶対無二の爽快感、ここに。
上に抜粋した文だけを読むと、もしかすると「語り口調が面白い旅行記」という印象だけを抱かれてしまうかもしれない。が、だとすれば私は首をぶんぶんと横に振って、あなたの手を取り囁きたい。
「だまされたと思って、まずは一冊お読みなさい」
 宮田氏はけっしてぶっとんだキャラではなく、むしろまっとうすぎるほど淡々とものごとに対峙・対応するタイプに思えるし、どのエピソードも特殊な大事件ではない。
 しかし、なまじまともであるがゆえについうっかり筆者と同調してしまうのがタマキング・ワールドの危ないところ。
 「そうそう」「あるある」と思いながら、ふと気づくと「まともすぎてもはや変」な筆者の審美眼世界のぬかるみに足がとられている。そして息つく間もなく展開する軽妙なタマキング節に、まんまとねじふせられてしまうのである。
 紀行文・エッセイとして楽しむことももちろんできるけど、私にとってはもはや人類の哀しい性をうたいあげるブルースの領域と言える。
 電車の中、手術後の方にはおすすめできない。
 また、読後しばらくは思考や口調がいちいち「おかしいではないか。これは誰
かの陰謀ではないか」となってしまうのでご用心。 
●宮田珠己の著書一覧とガイド↓
 宮田氏は旅好きゆえ、いずれの本もなんだかんだで旅がらみ。でもそれはたまたま背景やらモチーフやら手段やらが旅であって、結局は宮田珠己という「けったい(変)」かつ「まっとう」な魂がぶちまける、切れ味抜群の随想ワールドなのです。
 
旅の理不尽(小学館文庫・500円)
一介のサラリーマンが大型連休や有給休暇を利用したり上司の目をくらませたりして出かけた数々の旅の記。
そもそもは氏がサラリーマンだったころ部内報に書いていた一コーナーだった。
部内報→自費出版→それを読んだ編集者の強い希望により文庫化……という華々しい経緯を踏むにふさわしい、パンチ炸裂のメジャーデビュー作(それにしても……部内報作りも仕事の一貫とはいえ、これが会社で書かれたとは)。
「まずはインド人から悔い改めよ」「雪山を勘弁してやる」「花畑パカパカ王子」など16篇。
東南アジア四次元日記(旅行人・1365円)
※文春文庫PLUSの文庫版もあり。670円
タマキング氏が東南アジアのヘンな寺院やら仏像やら「不思議な風景」をめぐった記録と考察。
歴史解説などガイドブック的お役立ち要素はなし。写真が多く、その脇にすらっと添えられたキャプションを見るだけでも読者は笑い死にの脅威にさらされる。とはいえただ指差して笑いとばす類のものではなくて、対象を「鑑賞」する筆者の価値観がきっぱり明確で小気味よい。

「精霊無法地帯」「地獄の沙汰も遊園地」など12篇。
ウはウミウシのウ シュノーケル偏愛旅行記
(小学館・1365円)
 ヘンな形の生き物を見るのが好きな筆者が、世界各地の海で見たイソギンチャクやら岩ガニやらゴマモンガラやらの記録。
 ダイビングによる勇猛果敢な海中探検でも生態研究でもなく、著者の関心はただひたすら「ヘンな形」に注がれる。
 タマキング氏自身によるイラスト満載、これがまた秀逸。
ジェットコースターにもほどがある(小学館・1575円)
 日本国内・本場アメリカはもちろん、ブルネイから台湾にいたるまで、ありとあらゆる場所でジェットコースターに乗りまくった記録と、氏のジェットコースターへの愛と理想と分析と好き嫌いがゴージャスに展開。
 この本のせいで氏は「ジェットコースター評論家」の異名をとることにも。またこの本の口絵(カラー写真)によって初めておおっぴらに公開されたと思われるタマキングの容姿を見て、氏の文体や絵とのギャップに驚愕・悶絶し、あげくそのギャップをも丸抱えで虜になった読者も多いとみられる。
52%調子のいい旅(旅行人・1365円)
 なにが52%かというと、28編のエッセイのうち旅の話題がしめる割合がおよそ52%ということで、それ以上の深い意味はないとのこと。残り48%は近所の散歩・テレビ出演・父親・趣味・さぬきうどんについてなど。
旅の話に特に興味はない、むしろどうでもいい、という人をタマキンガーに陥れるにはこれが最適かも(なぜわざわざ他人を陥れる方法を問うのか、その理由はわかる人にはわかると思う)。
 ちなみに私はタマキング本の中ではこれをいちばん多い回数読み返しております。
晴れた日は巨大仏を見に(白水社・1680円)
 ウルトラマンより大きな仏像が、日本各地に存在している。
 周囲の風景とほとんど何のつながりもなく唐突に立っている巨大仏。これをもっと見たい。胸に湧き上がる奇妙な感触を解き明かしたい。 
 タマキング氏の真骨頂ともいえる「風景論」が炸裂した会心の最新刊。
 書店の新刊エッセイコーナーに並んでいることが多いけど、タイトルのせいか「宗教・倫理・哲学」の棚にひっそりと置かれていることも。
初心者さまに、勝手に道案内↓
「わたしの旅に何をする。」でハマった人は→その続編とも言える「52%調子のいい旅」をぜひ。
旅にはあんまり興味ないけど面白いものは読みたいわ、ぞわぞわしたいわという向きには→「ウはウミウシのウ」「ジェットコースターにもほどがある」など。
GACKT出演「ぷっちょ」のCMに出てくるお坊さんの行列人形が無性に気になる人は→「東南アジア四次元日記」がフィット。
あとは気持ちのおもむくままに。
●関連サイト↓
▼タマキンガーの部屋
http://homepage1.nifty.com/foz/tamaking/
タマキングに関心が湧いたらぜひアクセスを。
一読者の手によるファンサイトであるにもかかわらず、宮田珠己氏本人へのインタビューが不定期で掲載されたり(管理人さんの質問やつっこみがシャープでむちゃ面白い)、メディアへの露出・新刊・寄稿情報もあり(はっきりいって筆が遅い上に意表をつくようにひょこーっとメディアに登場するタマキング氏のことをファンは「いつどこででるか」とひやひやしているのでこれは貴重な情報源)、とにかく超充実。私もちょくちょくおじゃましてます。
 
タマキング自画像
●最後に、現在宮田氏が執筆中のユーラシア大陸横断記の一部をご覧下さい
 これはご本人から「ボツです」という注釈つきでいただいたプリントアウト紙の一部抜粋であり、実際に単行本化されるときとは様相が変わっている可能性が高いのですが、氏にとっての旅・感性を手っ取り早く垣間見てもらうには最適と思い氏の了承を得た上でここに掲載する次第です。
 ではどうぞ。
 
 旅行者というのは、ただの観光旅行であっても、なるべく異文化を経験したほうが偉い、旅行として格が上、というような思い込みが世間一般になんとなくあって、バックパッカーの間ではときどき、人の行かない奥地へ行ったかどうか自慢、あるいは、少しでもその国の人々の生活に食い込んだ体験をしたかどうか競争のようなものが、水面下で繰り広げられているときがある。その場合現地の友人ができると旅行が一歩充実したとみなされ五点、さらに食事をおごってもらうと二点追加で、家に泊めてもらった場合は持ち点が倍になり、結婚式に招待されるとジャンピングチャンスという暗黙のルールがあったりするけれども、私の場合、どちらかというと、そういう生活方面へぐいぐい食い込んでいくのではなく、生活からなるべく離れたところで、地に足のつかない心もとなさというか、見慣れない風景を見て、あれ、ここ、どこなんだっけ? というようなポツンと見
知らぬ場所に寂しく立っている味わいを愛好するところがあって、人間関係はなるべく薄めに抑えたい気持ちがある。せっかく日常から離れて風に吹かれにきたのに、外国でも日常に分け入ったりしていては、なんのこっちゃだ。
 つまりわたしは、異文化を少しでも多く理解したいというよりは、むしろ異文化はそのまま異文化として、わけがわからないままでいてほしいのであって、看板の文字なんか読めないほうが生活臭がなくて幻想的で面白い。
 そんなわけでこの話は、今後もまったく異文化理解方面へ進む予定はなく、むしろ何がなんだかさっぱりわからん異文化無理解という状態のまま、ますます西へ進むことになるだろう。
次回(12月8日更新)はなんと、タマキングご本人に登場してもらいます。インタ
ビュー遂行です。プレゼント用にサインももらってきます。お楽しみに。
 
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