橋口亮輔監督の映画を見るたび、他の映画の女性像が甘ったるく、うそっぽく見えてしまう。それは彼の描くヒロインが男性目線で見た理想の女性像とか、理不尽なことを優しく包み込む母性などまるで持ってないからだ。監督が「僕の映画のヒロインは僕自身」と言っていることも大きいと思う。前作「ハッシュ!」の、夫はいらないが子供はほしいと切望する、私生活にだらしないヒロインも実にリアルだったけど、6年ぶりの新作「ぐるりのこと。」の祥子も痛々しいほど身に迫る。
祥子はセックスする曜日を決め、夫の事情に構わず、「今日はする日でしょ」と主張してしまう、きまじめな女性。妊娠を機に結婚し、子供が生まれたら幸せになれると漠然と考えていたところ、子供の死という不測の事態に遭遇。職場で後輩から理不尽な責めを受け、上司や同僚に助けてもらえなかったこともあり、うつ状態に陥ってしまう。自分の考えていた人生設計から外れていく焦り、正論を主張してもはね飛ばされていく挫折感を木村多江さんが切々と表現していて、とても痛い。
それでも映画が暗くならないのは、いいかげんだけど、妻のうつに過剰に反応せず、静かに経過を見つめる夫、カナオの存在が大きい。ベストセラー「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」の原作者、リリー・フランキー氏が演じているが、ひょうひょうとしたたたずまいはさすが。
カナオが法廷画家という設定も興味深い。彼の目を通し、1993年から10年間、日本を震撼させた犯罪者たちの公判の断片を見つめることになるのだ。子殺しの犯罪者が多いのは、弱いものいじめの風潮が強くなっていった10年だったからだろうか?
(映画ジャーナリスト 金原由佳)